ここを見ている方でNDフィルターを愛用している人はどれくらいいるでしょう。
NDフィルターとは Neutral Density の略で、色味に影響を与えずに光量を落とすことができるフィルターです。色が偏らないサングラスのようなものです。明るい場所で低速なシャッター速度を使用したい場合や、明るすぎて開放絞りが使えない場合などに使用します。
NDフィルターは濃度の異なるものがいくつか販売されていますが、最近は濃度を変えることができるバリアブルNDフィルター( 可変NDフィルター )が注目されています。
フィルターを付け替えることなく、複数の濃度を一枚で可変できるものです。とっても楽チンなこのバリアブルNDフィルターですがお値段はちょっと高め。特殊なフィルターになりますから。ただ人気とはいっても注意ポイントもあります。よく知らずに説明だけ見て購入すると「騙された!」ということにもなりかねません。バリアブルNDがどのようなものかをよく知った上で購入し、うまく使いこなしましょう。
バリアブルNDフィルターを選ぶ
さて、まずはそのバリアブルNDフィルターを選ぶところですが、最近は外国製の安いフィルターも登場しており、濃度もいくつか種類がありますから迷うところです。濃度に関しては数値で表記されており「ND400」など、数値が大きい方がより濃く、暗くなります。
ただし、バリアブルNDに関しては表記の数値をそのまま受け止めない方が無難です。詳細は下部で解説します。
で、購入するなら、ズバリ現状のおすすめはSTC製のバリアブルNDです。台湾のフィルターメーカーです。CP+などでもいろいろなフィルターのデモンストレーションを行っていて、かなりまじめに作っています。バリアブルNDもSTCのものは濃度を上げても色の偏りがほとんど起こりません。国産メーカーを含むいくつかのバリアブルNDフィルターでは色が偏るものが多く、どことは言いませんが笑ってしまうくらい色が変わる有名メーカーのものもあります(色が変わらないと宣伝しているようですが・・・)。でもSTCのものはいたってニュートラル。
STCのバリアブルNDはND2〜1024とND16-4096の2種がラインナップされていて、数値が大きいほど濃度が高いものになります。ワタシが購入したのは高濃度タイプのND16-4096。お値段がそれなりにしますので、全フィルター径のものを購入するのは現実的ではなく、超望遠などを除いて実用するレンズの一番大きなフィルター径である82mmのものを選択。あとはステップアップリング(フィルター径を変換するリング)で対応します。
STCのフィルターはよしみカメラなどで正規販売しています。
よしみカメラの該当Webページはこちら(別ウィンドウで開きます)
バリアブルNDフィルターの使い方
バリアブルNDフィルターは2枚のフィルターが重ね合わせられており、前枠が回転します。これを回転させることで濃度を変更します。フィルター枠には濃度ごとに目盛りが刻まれていますので、求める濃度になるように設定します。
ND16-4096のフィルターでは、16、32、64、128、256、512、1024、2048、4096の目盛り(文字はありません)があり、使用は推奨されていないMax濃度となる位置も刻まれています。
あとはシーンに合わせて調整するだけ。求めるシャッター速度や絞りが使えるところまで濃度を上げていくだけです。
バリアブルNDは万能ではない
さて、便利なバリアブルNDですが、いいことばかりではありません。最大の問題は“ムラ”です。色が偏るのは製品の精度の問題ですが、このムラに関しては仕組み上どうしても起こりやすいもので、現状は高濃度のバリアブルNDフィルターのほぼすべてで発生するといっていいでしょう。そもそもこのバリアブルNDフィルターはPLフィルターのような偏光能力を持つガラスを組み合わせて使用しており、ムラが発生しやすいのです(PLフィルターでも多少のムラは発生します)。
このムラはレンズの光の進入角などの問題から焦点距離に大きく影響を受けます。焦点距離が短い広角レンズほどムラが発生しやすくなります。135フルサイズで50mm相当の標準域ならまともなバリアブルNDならムラはほとんど起こりませんが、35mmよりも広角になってくると発生しやすく、また濃度を濃くしたときにより強いムラが発生します。
筆者の使用しているフィルターでも、超広角で最大濃度にすると以下のようなムラが出ます。ただしそもそもこの最大濃度はメーカーが使用を推奨していない ND4096を越えたの推奨外の濃度設定です。
さらに難しいのは、同じ焦点距離のレンズでもレンズ機種によって、あるいはカメラ機種によってムラが出る、出ないの差があることがあります。ですので誰かが何mmでムラが出なかったから大丈夫、というのが成り立ちません。これは推測ですが、レンズの構成によって光の曲がり方などが微妙に異なることと、カメラはセンサー部に着けられているフィルター類やセンサー部のレンズの影響もあるのかもしれません。いずれにしても機材環境でも変わるのです。
解決策は・・・買って試してみるしかありません (笑)
複数のカメラを持っている方は、それぞれのカメラ、レンズで、ズームレンズならいくつかのズーム位置で試してみる必要があります。
ですからバリアブルNDのスペック値はあくまでも最大値で、実際にはその数値の1/3~半分くらいまで使えればいい、という見方をしておいた方がよいでしょう。ですからワタシはND16-4096という超高濃度のバリアブルNDを購入しています。4096の超高濃度なんて太陽でも撮らなければまず必要ありません。実際にはND16~ND400までの範囲が実用できればいい、という判断でND16-4096を購入しているのです。
こういったことを理解せずに購入してしまうと、全然ダメじゃないか! 騙された!となってしまいます。こういうものだと理解して使用する必要があります。
ムラの発生しない範囲で撮っていれば、こんなに便利なフィルターはありません。
特に筆者は海で撮影することが多くありますが、海の撮影では塩をかぶります。波をかぶらなくても風に乗って大量の塩が飛んできます。NDフィルターを取っ替えひっかえ使っていると、レンズ前面やフィルターの内側がすぐに塩で白くなり、当然画質にも影響してきます。このバリアブルNDなら着けっぱなしで済みます。必要なときだけフィルターの外側を拭けばいいのです。いくつもの面を白くすることがない。これだけでも使用する価値があります。
また、仮にムラが発生してもシーンによっては目立たないこともあります。特に複雑な絵柄や光線状態の場合は多少のムラは分からなくなります。
さらにいえば、そのムラも作画に使ってしまえばそれはそれで面白い画になります。
以下のカットはハッキリとムラが発生し、右下と左上が濃くなっています。でも焼き込んだような独特の雰囲気を作り出しています。以下のカットは焼き込み処理などはしていません。
と、このようにちょっとクセのあるフィルターですが、うまく使えば便利ですし、ワタシの購入したSTCのものであれば少なくとも色の心配はほとんどしなくて良いのでオススメです。
できれば通常の濃度固定のNDフィルターも持っておき、ケースバイケースで使い分けたり、場合によっては両方を組み合わせて使うなどすると良いでしょう。